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2011年2月

2011年2月23日 (水)

定型発達症候群:健常者をラべリングする

私どもは、自閉症の概念が単なるラべリングであることを主張しておりますが、さらに一歩進めて、定型発達者をラべリングして症候群にした論文を見つけました。自閉症者を自閉症と診断することと、定型発達者を定型発達障害と診断することの間に本質的な差がないことに気づかされます。自閉症の診断基準の文章を一部そのまま使用しており、方向性が違うだけであることを強調しています。

Charlotte Browlow.   Re-presenting Autism: The Construction of 'NT Syndrome'  

J Med Humanit (2010) 31:243-255.

(皮肉たっぷりに記載された、定型発達障害の診断基準)

定型発達病の診断マニュアル(DSN-IV)コード番号666.00:定型発達障害

幼児期あるいは子供時代に始まる発達障害の重症型。必須の特徴は、

A.   社会的相互関係における非依存性の質的障害

  例) 苦悩時に、極端に、あるいは異常なまでに慰めを求める

B.  言葉あるいは言葉によらないコミュニケーションと想像遊びにおける質的障害

  例) 露骨に過度なコミュニケーションの全ての方法の使用、コミュニケーションのための喃語、顔の表情、ジェスチャー、真似、話し言葉など。過度に空想的で無意義な活動、大人役、ファンタジーキャラクター、動物などのごっこ遊びなど。コンピューターや他の論理的に遂行する遊びへの興味の欠如。

C.  著しく制限された活動と興味のレパートリー 

  例) 感知の持続的欠如、あるいは物体の部分に気づく能力がない。通常でない物への愛着(例えば、BMWの車、ローレックスの腕時計、携帯電話、ブリーフケースへのこだわり)。不合理な、他人への正確な細部の同一性の保持、例えば、買い物の時、正確に同じ社会的行動がいつも返されることにこだわる。

D.  幼児期あるいは子供時代に始まる

(N.I.)

2011年2月18日 (金)

SSRIは自閉症スペクトラムに効果なし(コクラン レヴュー)

(最も信頼できる厳密なエビデンス評価機関であるCochrane レヴューからの論文です。自閉症にSSRIが効くエビデンスはこれまでのところないという結論です。)

Williams K et al. Selective serotonin reuptake inhibitors (SSRIs) for autism spectrum disorders (ASD). Cochrane Database Syst Rev 2010 Aug 4;(8):CD004677.

(背景)SSRIは、自閉症スペクトラムに関連して起こってくる、うつや不安、強迫行動等の治療のために使われている。

(目的)SSRIは、1.自閉症の中心的特徴を改善するか 2.自傷行為などを改善するか 3.本人や保護者の生活の質を改善するか 4.結果的に短期間、長期間の効果があるか 5.害を起こさないか を決めることを目的とした。

(結論)自閉症スペクトラムの子供たちにSSRIsの効果のエビデンス(証拠)はない、そして、むしろ、副作用のエビデンスがみられる。成人に対する効果のエビデンスは制限されている。

(N.I.)

2011年2月 7日 (月)

就労支援のための診断書様式の変更(精神障害者保健福祉手帳)

 (Nさんからきっかけの情報いただきましたhappy01

“共に生きる社会”を実現するための唯一のそして最もお金のかからない方法は、“共に学ぶ学校”を実現することです。しかし、なかなか変わらない分離社会の中で、相変わらず国も苦労しているようです。

そんな中で、有効利用できそうなのがこの話題です。手帳が無くても就労支援の一部は受けられますが、手帳を持っていなければ利用できないものもあります(障害者雇用率のシステム)。障害者雇用率のシステムの恩恵を得ることができたのが、身体障害者手帳を持っている人にかなり限定されていたのは、主に企業側の都合によるのですが、障害者雇用率の計算式の対象には精神障害者保健福祉手帳所持者が実は数年前に入っています(平成18年)。この時、療育手帳をもらえない自閉症者も雇用率にカウントできるようにしようと厚労省が動いたわけです。ところが、精神障害者保健福祉手帳の申請のための診断書に発達の偏りに関する記載項目がなかったので、手続き上の混乱が生じました。そこで、やっと昨年(平成22年)12月に厚労省が変更のための通達を出しました。これで診断書の中に自閉症者の特徴に関する項目が設けられることになります。

療育手帳を申請しなかった、申請してももらえなかった(高IQの場合)、あるいは療育手帳のAをもらえなかった自閉症者は、精神障害者保健福祉手帳を持たなければ、障害者雇用率システムなどの恩恵を受けることはできないのですが、この診断書の変更で精神障害者保健福祉手帳の申請がかなりスムーズにできるようになります。選択肢が増えたという意味では改善と考えることができます。

また、新様式には、学習障害や高次脳機能障害に対する配慮もみられ、学習の困難、遂行機能障害、注意障害などの項目も追加されます(施行は平成23年4月の予定)。

手帳を取得するかどうかは、メリット、デメリットがあるため、当事者たちの考え方で自由ですが、人生において必要性を感じる時もあるでしょうから、公的サービスの幅を広げる精神障害者保健福祉手帳というオプションがあることを発達障害者の方、御家族、支援者は、知っておられたら良いと思います。

(S.I. & N.I.)