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2011年5月25日 (水)

利他のすすめ チョーク工場で学んだ幸せに生きる18の知恵  大山泰弘著

帯にー知的障害者に導かれて、「日本でいちばん大切にしたい会社」をつくった経営者の心温まるメッセージ。ーとあります。

知的障害者雇用に尽力されてきた、あのチョーク工場(社員の七割以上が知的障害者であり、業界トップシェア。障害者に健常者と同じ賃金を払っています)の社長さんの書かれた本であり、生き方に感銘を受けました。こんな社長さんが増えることを願ってやみません。

お釈迦様の知恵。で始まります。お釈迦さまは、修行につまづいていた周利槃特に「お前にはお前の道がある」と「塵を払わん、垢を除かん」という言葉と箒を与えました。それから一心に掃除をする姿が尊く、手を合わせたくなるほどであった彼を「無言の説法」ができる者としてお釈迦さまは修行最高段階の十六羅漢の一人に選んだのでした―という話で始まります。社長さんは自分自身が周利槃特に手を合わせて生きてきたようなものだとおっしゃています。 知的障害者は時代や社会の影響を受けない、移ろいやすい世の中の「定点」のような存在とおっしゃっているのに感銘を受けました。従業員の知的障害者の中に自閉症を持つ方たちがいらっしゃることは描写からうかがえます。             

1959年、時代の価値観に浸り知的障害者に偏見さえ持っていたという社長さん、熱心な養護学校の先生から三度頼まれ、二人の知的障害を持つ少女を二週間の就業体験のつもりで引き受けました。無心で単調な仕事をし、「ありがとう」の言葉に心から嬉しそうな笑顔をする少女たち。最終日には、社員たちによる、「私たちが面倒をみるからあの子たちを雇ってあげてください。」との申し出。と初めは受け身的な出会いでしたが、何か導かれているようだったとのこと。社長さんは、知的障害を持つ少女たちからの「無言の説法」に気づいたのです。        

決意した社長さんは、知的障害者と本気で向き合うようになり、知的障害者を主力とする会社をつくろうと強い意志を持って歩き始めました。そう決意したとき、道は開けたと私は思います。本気で向き合うこと、それは愛だと思います。

知的障害者が理解しやすいように、彼らの目線に立ってさまざまな工夫を考えました。健常者の社員にいつも話しました。「うまくいかないことがあっても、知的障害者のせいにすることはできないんだよ。彼らの理解力に合わせて、彼らがうまくできるように工夫するのが君の仕事なんだ」と。本気で思い、工夫するーこうして、知的障害者が主体的に働ける製造工程も、社員間の信頼関係も築いてゆきました。

社会の偏見、無理解とも戦ってこられた様は、愛する家族を守る父親のように見えます。社長さんの姿勢に感服する外部からの協力要請や支援などを得て、ホタテ貝殻入りチョークや粉の出ないチョークも開発できました。  

知的障害者に教えられ、人のために生きてこそ人は幸せになれるという生き方をしてこられた社長さん。会社は人を幸せにする場所であるーと、企業こそ利益第一主義でなく、幸福の意味である「福祉」を追及するべきだと、福祉主義を提案し、広がらない障害者雇用の現実がどうにかならないかと具体的に提案してくださっています。(本当は社長さんのように本気で取り組んでくださる社長さんが増えることで社会は変わっていくと思います。また、「共に学ぶ」インクルージョン教育はそれを促進するでしょう。) 

(N.I.)

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