発達 Feed

2010年12月21日 (火)

発達のランドスケープ(試作1)

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発達のランドスケープの試作1号です.扇形のなだらかな坂があり,坂の表面は凸凹しています.扇の要のところに玉出し装置があり,そこから玉が坂にでてきます.斜面の凸凹のために玉の起動は影響を受け,坂の下の到達点に達します.この坂の場合,ほとんどの玉は低い位置に集まる傾向がありますので,到達点は坂の下の中央付近に分布します.しかし極端なコースをとる場合もあり,中央からかなり離れた位置で到達点に達しますが,そういったケースは少数派となります.このようなモデルでは,到達点の分布は正規分布になるはずです.

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玉出し装置の部分は,ひとりひとりの遺伝的背景によって形が異なります.向きが変わったり,玉だしの速度が変化します.

(S.I.)

2010年12月17日 (金)

形質ベクトル間の非直線的関係

遺伝子型(genotype)と表現型(phenotype)の間のブラックボックスの中をのぞこうとすると,一筋縄ではいかないいろいろな仕組みが存在しています.その中では,比較的観察(理解)しやすい仕組みに,形質ベクトル間の非直線的関係があります.表現型や内表現型(endophenotype)としての形質は,複数の形質が複雑に影響し合って最終的な状態になりますが,この形質間の相互作用が直線的な関係でない場合が多いことが,問題をより複雑にしています.影響し合う形質が,3つの場合は3次元の構造,4つの場合は4次元の構造を推測しなければならず,かなり厄介な課題と言えます.ここでは,2つの場合に限って考えてみます.

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左側は,意味記憶と感覚記憶の発達の経過に基づく非直線的(曲線)関係です.感覚記憶には,写真記憶や録音記憶も含みます.通常は3~4歳になって言葉が増えてくると,意味記憶が可能になってきて,急速に感覚記憶を使わなくなります.右側は,さらに複雑で,適度なこだわりがあれば,生産性・到達点は非常に高いのですが,こだわりが不足していたり,こだわりすぎると逆に生産性・到達点は低くなります.

(S.I.)

2010年12月14日 (火)

Canalization①Waddingtonの記載(canalizationとlandscape)

Waddington CHが記載したcanalizationという概念は,古い訳本では運河化と訳されています(文献1).最近では進化や発達に関連して重要なキーワードとなっているため,ブログの最初のテーマの一つとして取り上げます.Waddingtonは,器官の発生などの道すじが異常な遺伝子の存在や外的環境の変化の影響を受けにくいことを指摘し,その道すじが固執される傾向があることを運河化としています.

また,Waddingtonは,卵からの発生・分化の流れを,谷をころがり落ちるボールに例えて描写し,epigenetic landscape(後成的風景)と表現しました(下図)(文献2).一時的になんらかの力で速度や向きが変わっても,やはり低いほうにボールはころがり落ち,結局はいつもの発生・分化が達成される傾向があるとし,谷の一つ一つがcanalizationの運河であるような説明がなされています.

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epigenetic landscapeのepigeneticは後成的と訳されており,発生の過程における後の方(ボールが転がるスロープ)を表現しているようです.epigeneticという言葉は,最近ではDNAのメチル化のような遺伝子配列以外のファクターを記載する時によく使われますが,同じ現象を遺伝子間の相互作用の複雑性で説明する立場もあります(文献2).

この風景の中の傾斜のある谷を運河と呼ぶには抵抗があります.canalという単語には人工水路(運河)という意味の他に導管という意味もあるため,道すじが変わらない通路という意味でWaddingtonはcanalizationという言葉を使ったのかもしれません.

(文献1) 岡田瑛・岡田節人訳,「発生と分化の原理」 共立出版 モダンバイオロジーシリーズ7

(文献2) Goldberg AD, et al. Epigenetics: a landscape takes shape. Cell 128: 635-638, 2007.

(S.I.)