論文紹介 Feed

2013年1月20日 (日)

自閉症の力

Nature 2011年11月3日号は、‘自閉症の謎’という神経科学の特別号でした。その中に、‘自閉症の力’というLaurent Mottoronの素晴らしいコメントが載っていましたので、紹介します。

最近のデータ (と個人的経験)は、科学を含む特定の分野で、自閉症であることが強みであり得ることを示す(The power of autism.Nature 479:33-35,2011)

このコメントでMottoronは、以下の点を指摘しています。

・自分の研究グループのスタッフに8人の普通の自閉症者がいて、日々の研究に貢献している(Mottoronは、彼らの貢献が自閉症にもかかわらずではなく、自閉症だからこそと評価しています)。

・その中の自閉症女性Michelle Dawsonは、7年前からMottoronの共同研究者であり、多くの論文を共著してる。Mottoronらは、彼女から教えられ自閉症に関するこれまでの仮説やアプローチ法に疑問を持つようになった。これらの疑問には、ネガティブな特徴で定義され、多くの優れている点が診断基準に含まれていないこと、自閉症のための教育プログラムが自閉症的行動を矯正し定型発達に無理に近づけようとしていること、自閉症式のコミュニケーションスタイルを無視していること、MRIでの脳活動の特徴を欠陥であると一方的に判断していること、知能の評価を自閉症者が得意とする課題(Ravenマトリックステストなど)ではなく定型発達の人が得意とする言語性検査で行うことに何の疑問も感じていないこと、などである。

・多くの自閉症者は、学術的科学に適している。子どもの頃から彼らは数や文字や数学や幾何学パターンのような情報や構造に興味を持っている。これは科学的思考の基礎である。彼らの極端な興味の集中は、彼らが科学的トピックスにおける独学の達人となることを助ける。

・自閉症者は、大量の感覚的情報を同時に処理することができる。例えば膨大なデータの処理では非自閉症者よりも優れている。自閉症者は記憶力に優れているし、データを誤って記憶することはあまりない。Dawsonの鋭い視点は、科学はデータを最重要視すべきと我々に教える。彼女(自閉症者)は、細部から全体を組み立てる思考ルールを持っており、正確なモデルを考えるに至る。

・自閉症者は治療よりも機会や支援を必要としている。自閉症が人類に含まれる一つの特異タイプとして記載され研究されるべきである。十分に啓発された社会の指標は、少数派の行動や形質のインクルージョンである。科学者もまた、自閉症の欠損を単純に研究する以上のことをすべきで、自閉症の能力と強みに目を向けるべきである。

(N.I.)

2011年8月21日 (日)

DSM-Vにおける自閉症スペクトラム障害(Wingの意見)

DSM-5のドラフトにみられる改善点(自閉症について)は、2010年12月15日本ブログに掲載しました。同ドラフト(最初のもの)についてのウィングさんの意見です。現段階でDSM-5のHPにのっているドラフトは最初のものへの意見を検討し修正されて2011年1月26日に発表されたものです。これもまた意見募集され(締切済)修正されます。そして3回目の意見募集もされます。2013年には決定版が出る見通しです。ウィングさんのこれまでの見解、この論文での指摘、それに関してのDSM-5ドラフトの修正、についてもまとめてみました。

Autism spectrum disorders in the DSM-V: Better or worse than the DSM-IV?

Wing L, et al. Reseach in Developmental Disabilities, 32: 768-773,2011

要約:DSM-V委員会は最近、自閉症スペクトラム障害への診断基準草案を公表した。我々はこれらの基準を詳細に検討する。DSM-5委員会が見落としている大切な問題には、社会的想像力(を基準に入れていないこと)、幼児期と成年期における診断(に対応していないこと)、新マニュアルのもとでは自閉症をもつ女児や女性は認識されなかったり誤診され続けるであろう可能性が含まれる。我々はDSM-5基準が実践や研究において信頼され妥当性を持って使われるためには、かなりの変更が必要であると結論する。

まとめ

項目番号

Wingのこれまでの見解

Wingの今回の指摘

DSM-5ドラフトの修正

(当初からの特色)

2

(社会的)イマジネーションの障害を診断基準に入れるべきである。

特に変更なし。

3

感覚過敏・鈍麻を必須診断基準に入れるべき。

B4に独立して記載。

4

下位基準が具体性に欠ける。

ある程度修正。

4

社会的相互作用の障害は出生時から存在する。“社会的要求が本人のキャパシティーを超えるまで表面化しないことがある”は削除するか、“一般の人には気づかれない”とすべき。成人の特徴に専門家は精通すべき。

特に変更なし。

4.1

社会との軋轢がある場合のみ診断が必要。

早期診断・早期介入が言われており、幼少時の詳しい基準が必要。

アイコンタクトの異常を追加

5

女性の特徴を検討すべき。

特に変更なし。

6

サブグループ間の境界はない。年齢による変遷。

統一概念化は評価するが、サブグループの説明を入れるべき。

特に変更なし。

(統一概念化)

6

定型発達者との境界もない。

(外来受診者においては定型発達者と区別できるとしながら“質的に”を削除)

7

各個人のニーズに関連するドメインリストがあるべき。

特に変更なし。

社会との軋轢がある場合のみ診断が必要。

D.日常的機能が制限される”を追加。

(N.I.)

2011年2月23日 (水)

定型発達症候群:健常者をラべリングする

私どもは、自閉症の概念が単なるラべリングであることを主張しておりますが、さらに一歩進めて、定型発達者をラべリングして症候群にした論文を見つけました。自閉症者を自閉症と診断することと、定型発達者を定型発達障害と診断することの間に本質的な差がないことに気づかされます。自閉症の診断基準の文章を一部そのまま使用しており、方向性が違うだけであることを強調しています。

Charlotte Browlow.   Re-presenting Autism: The Construction of 'NT Syndrome'  

J Med Humanit (2010) 31:243-255.

(皮肉たっぷりに記載された、定型発達障害の診断基準)

定型発達病の診断マニュアル(DSN-IV)コード番号666.00:定型発達障害

幼児期あるいは子供時代に始まる発達障害の重症型。必須の特徴は、

A.   社会的相互関係における非依存性の質的障害

  例) 苦悩時に、極端に、あるいは異常なまでに慰めを求める

B.  言葉あるいは言葉によらないコミュニケーションと想像遊びにおける質的障害

  例) 露骨に過度なコミュニケーションの全ての方法の使用、コミュニケーションのための喃語、顔の表情、ジェスチャー、真似、話し言葉など。過度に空想的で無意義な活動、大人役、ファンタジーキャラクター、動物などのごっこ遊びなど。コンピューターや他の論理的に遂行する遊びへの興味の欠如。

C.  著しく制限された活動と興味のレパートリー 

  例) 感知の持続的欠如、あるいは物体の部分に気づく能力がない。通常でない物への愛着(例えば、BMWの車、ローレックスの腕時計、携帯電話、ブリーフケースへのこだわり)。不合理な、他人への正確な細部の同一性の保持、例えば、買い物の時、正確に同じ社会的行動がいつも返されることにこだわる。

D.  幼児期あるいは子供時代に始まる

(N.I.)

2011年2月18日 (金)

SSRIは自閉症スペクトラムに効果なし(コクラン レヴュー)

(最も信頼できる厳密なエビデンス評価機関であるCochrane レヴューからの論文です。自閉症にSSRIが効くエビデンスはこれまでのところないという結論です。)

Williams K et al. Selective serotonin reuptake inhibitors (SSRIs) for autism spectrum disorders (ASD). Cochrane Database Syst Rev 2010 Aug 4;(8):CD004677.

(背景)SSRIは、自閉症スペクトラムに関連して起こってくる、うつや不安、強迫行動等の治療のために使われている。

(目的)SSRIは、1.自閉症の中心的特徴を改善するか 2.自傷行為などを改善するか 3.本人や保護者の生活の質を改善するか 4.結果的に短期間、長期間の効果があるか 5.害を起こさないか を決めることを目的とした。

(結論)自閉症スペクトラムの子供たちにSSRIsの効果のエビデンス(証拠)はない、そして、むしろ、副作用のエビデンスがみられる。成人に対する効果のエビデンスは制限されている。

(N.I.)