表現型の階層構造を,社会性とコミュニケーション能力を例にして説明します.DSM-5のドラフトでは,自閉症の診断のためには,両者は社会的コミュニケーションとして扱われることになっています.下図のように社会性の背景にはコミュニケーション能力が関与しますし,コミュニケーション能力の背景には社会性が関与します.また,この階層は4層かもしれませんし,もっと多い場合も想定されます.各層のドメインが非常に多い場合もあり得ます.評価する一番上(最表層)の形質ドメインによって,深層で関与するドメインはその深さが変化します.表面からはわかりにくいドメインや,表面からはまったく見えないドメインも存在し,内表現型(endophenotype)と呼ばれています.
(S.I.)
遺伝子型(genotype)と表現型(phenotype)の間のブラックボックスの中をのぞこうとすると,一筋縄ではいかないいろいろな仕組みが存在しています.その中では,比較的観察(理解)しやすい仕組みに,形質ベクトル間の非直線的関係があります.表現型や内表現型(endophenotype)としての形質は,複数の形質が複雑に影響し合って最終的な状態になりますが,この形質間の相互作用が直線的な関係でない場合が多いことが,問題をより複雑にしています.影響し合う形質が,3つの場合は3次元の構造,4つの場合は4次元の構造を推測しなければならず,かなり厄介な課題と言えます.ここでは,2つの場合に限って考えてみます.
左側は,意味記憶と感覚記憶の発達の経過に基づく非直線的(曲線)関係です.感覚記憶には,写真記憶や録音記憶も含みます.通常は3~4歳になって言葉が増えてくると,意味記憶が可能になってきて,急速に感覚記憶を使わなくなります.右側は,さらに複雑で,適度なこだわりがあれば,生産性・到達点は非常に高いのですが,こだわりが不足していたり,こだわりすぎると逆に生産性・到達点は低くなります.
(S.I.)