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2010年12月14日 (火)

Canalization①Waddingtonの記載(canalizationとlandscape)

Waddington CHが記載したcanalizationという概念は,古い訳本では運河化と訳されています(文献1).最近では進化や発達に関連して重要なキーワードとなっているため,ブログの最初のテーマの一つとして取り上げます.Waddingtonは,器官の発生などの道すじが異常な遺伝子の存在や外的環境の変化の影響を受けにくいことを指摘し,その道すじが固執される傾向があることを運河化としています.

また,Waddingtonは,卵からの発生・分化の流れを,谷をころがり落ちるボールに例えて描写し,epigenetic landscape(後成的風景)と表現しました(下図)(文献2).一時的になんらかの力で速度や向きが変わっても,やはり低いほうにボールはころがり落ち,結局はいつもの発生・分化が達成される傾向があるとし,谷の一つ一つがcanalizationの運河であるような説明がなされています.

Landscape

epigenetic landscapeのepigeneticは後成的と訳されており,発生の過程における後の方(ボールが転がるスロープ)を表現しているようです.epigeneticという言葉は,最近ではDNAのメチル化のような遺伝子配列以外のファクターを記載する時によく使われますが,同じ現象を遺伝子間の相互作用の複雑性で説明する立場もあります(文献2).

この風景の中の傾斜のある谷を運河と呼ぶには抵抗があります.canalという単語には人工水路(運河)という意味の他に導管という意味もあるため,道すじが変わらない通路という意味でWaddingtonはcanalizationという言葉を使ったのかもしれません.

(文献1) 岡田瑛・岡田節人訳,「発生と分化の原理」 共立出版 モダンバイオロジーシリーズ7

(文献2) Goldberg AD, et al. Epigenetics: a landscape takes shape. Cell 128: 635-638, 2007.

(S.I.)

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